2012-05-02
五月に
二十歳 きみは五月に誕生した
病院の白いシーツの海から立ち上り
きみはさがした 不死の自分を
底知れぬ記憶の中の田園に
はてしない想像力の都市のうちに
五月よとどまれ きみの額に
<だれでもその歌をうたえる
それは五月のうた>と
きみはノオトに書きしるし
その日からきみはもとめた 世界全部を
訛りある懐かしい日本語で問いつづけながら
五月よとどまれ きみの指に
木苺の 風のひかりの 新しい血の
きみの五月にきみは旅立つ
きみ自身を世界とひきかえにした
危険な賭け事に勝ったのは誰だったのか
舞台のくらがりに立ちつくすきみの長身
五月よとどまれ きみの背中に
谷川俊太郎
寺山修司の葬儀で弔辞に代えてよまれた。寺山の詩「われに五月を」か
らの引用が各連にある。五月を愛し、五月に死んでいった詩人にとって、
これほどふさわしい弔辞が他にあるだろうか。
友人として葬儀委員長まで務めた谷川であったが、元妻の故・佐野洋子
に「あなた、すごくショックでしょう」ときかれて「ううん、僕、別に」
と答え、さらに「あいつの仕事は、全部だいたいわかったから、僕もう
いいんだよ」と言ったという。
ドライと言ったらいいのか、透明と言ったらいいのか。人間そのものが
まるで彼が作った詩のようだ。間近で詩人をみたとき、私はそう思った。
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まとめtyaiました【五月に】
二十歳 きみは五月に誕生した病院の白いシーツの海から立ち上りきみはさがした 不死の自分を底知れぬ記憶の中の田園にはてしない想像力の都市のうちに五月よとどまれ きみの額に…