讃歌
好きな作曲家を讃えるシリーズ。
今日はこの人。
Béla Bartók(1881-1945)
分厚い音楽辞典をぺらぺらめくっていて、思わず手がとまった。
鋭いまなざしで向こうの方をじっとみつめる青年。彼の名は?
それがバルトークとの出会い。他の誰よりも強烈な印象だった。
意思の強そうな瞳。端正な顔立ち。音楽よりも先に顔を知った。
後から音楽を知った。そして虜になった。
バルトークのもつ荒々しさと繊細さ。そこに民謡の要素が加わり、
その音楽は喩えようもなく魅力的になる。どこか危険な香りもする。
以下は特に好きな作品。
・弦楽四重奏曲 第1番、第3番、第4番(Hagen Quartet)
・ヴァイオリン・ソナタ 第1番、第2番(Gidon Kremer/Iury Smirnov)
・2台のピアノと打楽器のためのソナタ(Sviatoslav Richter/etc.)
・中国の不思議な役人(Pierre Boulez/Chicago Symphony Orchestra)
19世紀から20世紀という音楽史の過渡期を生きた彼は何を感じていたのか。
ハンガリーの作曲家として難しい生き方を選んだが、現代音楽に最高の遺産
を遺した。今日は作曲家の誕生日。敬意を表して、長田弘の詩を彼に贈ろう。
冬の光
ただ一つも不要な音があってはならない。
その音でなければならない音を、
そこでなければならない場所に置く。
鋼を削るように、音を細心に削って、
これ以上削れないまで鋭く削って、
おそろしいほどの静寂のただなかに置く。
すると、音のまわりに
すべての静寂が集まってくる。
音を伝って、やがて静寂が滴ってくる。
バルトークは静寂を激しくもとめた。
音のもつ力は、静寂を集める力だ。
音楽は静寂の滴りなのだ。
野原の匂い。………
農民たちの古い歌。………
冬の光。………
急がねばならない。バルトークは言った。
静寂という静寂が滅ぼされようとしている。
尊厳を育むものは、だが静寂なのだ。
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