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2014-07-21

Tedi Papavrami

「どんな音が好き?」先生に訊かれた。しばし考えて、「苦しい音が好きです」と答えると、先生は戸惑った表情をした。先生には理解し難い回答だったんだと思う。高校一年生の時だ。
当時は武満徹ばっかり聴いていた。それも初期の厳しい作風のものばかり。だからそういう痛々しい響きや音が自分にはしっくりきていた。今から思えばかなり極端な答えだが、一曲を演奏するのにすごいエネルギーを消費し、常に瀬戸際に立たされているんだという強いプレッシャーを感じていたあの頃の自分には、あれもいいこれもいいと色々悩んだり選んだりする余裕などはなく、そう答えるのが最も正しかった。
大学に入ってからは絶対にこれというものは少し薄れていき、どんな音楽にも幅広く対応できるようになろうとしたし、そうなるように教えられた。演奏することに対するプレッシャーや緊張、力みや気負いもだんだんと減っていき、自分をコントロールする精神的な余裕も出てきた。良く言えば柔軟になったが、そういう過程である意味では小手先芸とも言える技術も身につけた。同時に何か大事なものを失っていくように思えた。もっともこの小手先の技術は、現場では全く使いものにならないものだったということを最近は特に痛感している。
やはり17歳の”苦しい音”は私のなかで生きている。この10年間で少しずつ形を変えながら。槍のように一直線で鋭い音。魂をえぐり取られるような音。私の大事な音。そんなことを強烈に思い起こさせてくれたヴァイオリニスト、Tedi Papavramiの演奏。

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